GERMANY ファン・ハールを救ったオリッチ [THE JOURNALISTC]
ブンデスリーガ 《ルドガー・シュルツェ記者》
ブンデスとCLのコンペティションで窮地に立たされていたバイエルン。ファン・ハール監督の解任も、時間の問題と囁かれていた。そんな指揮官を救ったのがオリッチ。とりわけユーベ戦のパフォーマンスは圧巻だった。
移籍金ゼロのプレーヤーが 希望をもたらす救世主に
救世主級の働きを見せているオリッチ。ハイライトはユーベ戦だ。果敢な突破でPKをもたらすと52分にはみずからゴールを奪う
【サッカーは言うまでもなく団体スポーツだ。ただ時として、たった一人の選手の存在が、良くも悪くも勝負の行方を決定付けることがある。そのことをいま、もっとも実感しているのはバイエルン・ミュンヘンだろう。
PK戦にもつれ込んだ2000-01シーズンのチャンピオンズ・リーグ決勝で、神がかり的なセーブを連発した守護神オリバー・カーンのような英雄が、再び現われたのである。英雄の名は、イビチャ・オリッチ。クロアチア生まれのアタッカーだ。
この29歳のレフティーの入団が発表された昨夏、ファンの多くは、
「入団しても彼にポジションはないだろう」
「どうせベンチウォーマーだろう」そう言った見方が大半だった。
移籍金がかからなかったという事実も、「ノー・コスト、ノー・バリュー」(移籍金ゼロで獲得できた選手には価値がない)という偏見にとらわれたファンの多くは、所詮は安物、使われてもスーパーサブ的な扱いだろうと思い込んでいたのだ。
ところが...。
これほど“ローコスト”な選手が、まさかチームに希望をもたらす救世主になろうとは、だれも想像できなかっただろう。オリッチは、不振が続いた今シーズンの前半戦で、もっとも輝いた選手といっていい。
ハイライトは12月8日、敵地トリノで戦ったチャンピオンズ・リーグのユベントス戦だ。バイエルンが決勝トーナメントに進出するには、このユーベに勝利を収めることが絶対条件だった。相手は優勝候補の一角にも挙がるユーベである。案の定と言うべきか、開始19分にダビド・トレゼゲに先制ゴールを叩き込まれ、バイエルンは絶体絶命の状況に追い込まれる。だが、その窮地をオリッチが救うのだ。4-1の逆転勝利を飾ったのだ。
前線で何度もチャンスを作り、躍動感溢れるプレーで強固なユーベ守備陣を翻弄し続けたオリッチに、サッカー専門誌『キッカー』が付けた採点は最高の1。納得の評価である。もちろん、この試合のマン・オブ・ザ・マッチも彼だった。】
怪我で離脱していなければ 首位に立っていた可能性も
オリッチの大活躍により、辛くも解任の危機を脱することができたファン・ハール。ただ、本当の勝負はここからだろう
【勤勉で忠誠心に溢れ、思い上がることも一切ない。そしてピッチ上では、労を厭わない献身的なプレーでチームに貢献する。雇い主から見れば、オリッチは理想的なプレーヤだろう。スター揃いのバイエルンにあって、オリッチの存在は確かに地味に映る。だが、そんな彼の猛烈な闘争心と逆境を跳ね返そうとする強靱なメンタルが、苦しむチームに勢いと結果をもたらしたのだ。実際、オリッチがいなければ結果は違っていたと、そう思わせる試合が少なくない。
それにしても、と思う。仮にオリッチが、右ふくらはぎの怪我で10月上旬からの約1カ月を欠場していなければ、バイエルンはブンデスリーガで首位に立っていたのではないか(前半戦を終えて3位)。また、成績不振が原因で引き起こされたチームないのいくつかの“ゴタゴタ劇”も、おそらくは発生していなかっただろう。
フロントとの関係が急速に悪化して、苦しい立場に追い込まれたのがルイス・ファン・ハール監督だ。ファン・ハールへの信頼は、日を追うごとに薄れていった。
指揮官の思惑通りにはチーム作りは進まず、新生バイエルンは序盤から苦戦を強いられる。ブンデスリーガでは2分け1敗と出遅れ、14位に転落。開幕3試合で勝ち点2しか得られなかったのは、43年ぶりの出来事だった。
勝利から見放されるようになると、選手側からも不満の声が噴出した。さらに、指揮官に対する不満は態度にも現れる。
ある中心選手は、匿名を条件に胸の内を明かしてくれた。
「彼は、サッカーが持つ本質的な魅力や楽しさを、これっぽっちもわかっちゃいない。もっとも重要な部分をね。そういう感情は必要ないっていうのが、彼の持論なんだ。ついていけないよ」】
正GK問題がひとまず決着 オフェンス面にも好材料が
すでにカムバックを果たしているロッベンに続き、リベリの復帰も間近。後半戦に向けて、これ以上ない朗報だ
【ファン・ハール監督の解任は時間の問題...。11月に入る頃には、記者の間でもそうした意見が大勢を占めるようになっていた。おそらくトリノで敗北を喫し、チャンピオンズ・リーグからの早期敗退を余儀なくされていれば、バイエルンのフロントはウインターブレイク中、新監督探しに奔走していたことだろう。
しかし、前述したように大一番のユーベ戦で圧勝を収め、ビッグイヤー獲得の望みを首の皮一枚で繋ぎ止めることに成功したファン・ハールは、解任の危機を見事に切り抜けたのだ。
もちろん、ここからが本当の勝負。過酷な戦いが続くことに変わりはないが、今後に向けて光明も差している。ひとつは、確固たる存在が見当たらなかった正GKの問題に、一応の決着がついたことだ。
バルサのような息のあったコンビプレーはいまだ見られないが、オフェンスにもポジティブな材料がある。膝の怪我で長期の離脱を余儀なくされていたアリエン・ロッベンが復帰し、攻撃のバリエーションがアップ。同じく膝の怪我で戦列を離れているリベリのカムバックも間近と伝えられる後半戦は、このふたりのワールドクラスが、フル稼動しそうなのだ。
チャンピオンズ・リーグとブンデスリーガの両コンペティションで崖っぷちに立たされながら、ここにきて復調の兆しを見せているバイエルン。この状況に、だれより安堵しているのはファン・ハールだ。一日の仕事を終え、ベッドに入る直前、厳格な指揮官は毎日こう思っていることだろう。オリッチに足を向けては寝られない...。】
《ワールドサッカーダイジェスト:2010.1.21号_No.307_記事》







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